適応障害で休職中の方へ。復職前にやっておきたい再発リスクを軽減するストレスとのつきあい方

適応障害は強いストレスにさらされ、気分の落ち込みや意欲の低下、不眠や身体症状を生じる病気です。ストレスの元から離れている間は調子も持ち直すので、サボりや仮病ではないかと誤解を招くこともあります。

しかし、適応障害はれっきとした病気です。適応障害を生じるメカニズムを知り、復職後の再発リスクを軽減しましょう。

  • 適応障害にも効果的。認知行動療法を知っておこう

    適応障害で休職中の方へ。復職前にやっておきたい再発リスクを軽減するストレスとのつきあい方
    ※イメージ写真です

    適応障害には明確なストレスの元があり、ストレスが引き金になることで様々な症状があらわれます。原因が明確であるので、原因であるストレスから離れれば、症状は軽くなります。

    このような特徴を持つ病気ですから、治療の第一選択は環境調整ということになるでしょう。ストレスの元から離れ、疲弊した心身を休ませることが、回復につながります。適応障害の場合、必ずしも薬物療法(服薬)を用いる必要がないのはこのためです。

     

    不眠や不安という症状に対して、対症療法的に薬剤を用いることがあるかもしれませんが、補助的な治療と考えてください。

     

    ストレスの元から離れて、穏やかな環境で十分な休養をとれば、適応障害は回復します。

    ただ、適応障害による休職期間を心身の回復だけに費やすのは、少しもったいないのかもしれません。

    心身の回復は最重要事項ですが、同じくらい大切なのは、復職後の再発リスクを低減することです。せっかく復職したのであれば、病気の再発は防ぎたいものです。

     

    適応障害は、原因となっているストレスとの付き合い方で、状態が変わります。

    復職後、新たに置かれた環境下で、どのようにして心身の健康を維持するか。

    ストレスによって、再び不調をきたさないために、何か準備できることはないか。

    つまり、ストレスとの付き合い方を考えておくことも、復職後を見据えた休職期間では大切です。

     

    ストレスとの付き合い方を学ぶのに有効な心理療法があります。認知行動療法と言い、心理療法のなかでももっとも有名なものの一つです。

    この認知行動療法では特に自分のものの考え方のクセに焦点を当てますが、これは自分が何をストレスと受け止めるか理解を深めるためです。

    同じ出来事があっても、ある人にはストレスに感じられ、別の人には軽く受け流せるという事柄もあるでしょう。これは、単純に性格や気質の問題ではありません。

    その人なりの信念やこだわりというものの見方・考え方が影響していると言うべきです。

     

    以下の例を見ながら、より詳細に説明していきます。

     

    職場におけるストレスから適応障害を発症した方を想定しましょう。

    職場のなかで、業務は過重労働気味であり、ミスがあっても上司はフォローしてくれないという状況にありました。

    Aさんは「上司は部下のフォローをするのが仕事だ。フォローをしないなんてありえない」と考えます。

    Bさんは「与えられた仕事はすべて自分の責任。ミスをしても自分で取り返すべきだ」と考えます。

     

    さて、より強いストレスを感じていたのは、Aさん、Bさんどちらでしょうか。

     

    実のところ、答えに正解はありません。AさんもBさんもそれぞれ考え方のクセのために、強いストレスを感じていたと思われます。

    どちらが発症しても不思議はないですし、どちらも発症していたかもしれません。

    一人ずつ詳細を見ていきましょう。

  • 認知行動療法に学ぶストレスとのつきあい方

    Aさんの頭の中には「上司は部下の面倒を見るべき」という価値観があります。

    Bさんには「どんな仕事量でも、すべて自分で片付けるべき」という価値観があります。

    どちらの価値観、考え方が正しいというものではありません。

     

    Aさんの場合は、たとえば「上司も自分の案件で手いっぱいで、Aさんのミスまで気が回らなかったかもしれない」という仮定に思い至っていたら、Aさんが感じた腹立ちや悲しさ、見捨てられたような気持ちもやわらぐかもしれません。

    けれども、Aさんの考え方では「上司は部下のフォローをするべき」だったのです。これでは、思うように動いてくれない相手にイライラを募らせ、ストレスを感じるばかりです。

    ここには、認知の歪みといわれる「べき思考」が見られます。「べき思考」とは、その名の通り、自分で考えた物事の基準に対して「~するべき」「そうするのが当然」と決めつけるものです。

    自分の基準はすべての人に通用するものでないため、ときに、他者とのトラブルのもとになります。

    ここでのAさんの例も一種の対人トラブルと言えるでしょう。

    休職前の状態と変わらず、このまま復職したら、Aさんは再びストレスフルな日常に戻ることになります。

    復職前に認知の歪みについて知り、ストレスに感じないものの見方、考え方を身につけておくほうが賢明です。

     

    Bさんの場合は、過重労働にもかかわらず、周囲の人間に分担してもらうことができませんでした。「自分ですべて片付けるべき」という考え方があるからです。

    ですが、ここで「今、自分はキャパオーバーなので、少し手伝ってもらえませんか」と言えていたら、どうだったでしょう。

    責任感が強いのは長所ですが、度を過ぎると頑なさになります。仕事をため込みすぎてストレスを感じ、病気を発症したら、せっかくの長所も台無しです。

    自分の考え方のクセ、すなわち認知の歪みを理解し、行き過ぎた部分を修正できれば、復職後は強みとして発揮できるようになるかもしれません。

    「困ったときはお互い様。自分も手伝ってあげたことがあるから、今度は手伝ってもらえばいいや」

    Bさんがそんな風に考えられれば、ずっしり重い肩の荷も少しずつ下りていくことでしょう。

     

    AさんもBさんも、休職することで、職場というストレスの元から離れ、回復できることと思います。が、休養するだけではもったいないのです。

     

    認知の歪み(考え方のクセ)を理解し、ストレスを感じにくい枠組みを作っていく。

    適応障害の方が復職する場合は、是非ともこのプロセスを踏んでいただきたいと思います。

    そのためには、認知行動療法の手法は大変効果的です。

  • 考え方の修正だけじゃない、ストレスコーピングという対処法

    適応障害とストレスは密接な関係があります。先の項ではストレスを感じにくくする思考の枠組み作りについて説明しました。

    これも大変有効なストレスへの対応策なのですが、これだけでは不十分です。

     

    と、いうのも、人間の社会から、ストレスの元をなくすことは不可能だからです。ストレスは悪者扱いされがちですが、良いストレスと、悪いストレスに分類されます。

    適度な緊張感などは良いストレスの代表で、これがあることにより、人間は普段以上の力を発揮することも可能になります。

    私たちが問題にしたいのは、心身の健康に影響を及ぼす悪いストレスで、これに出会ったとき、どうするかを考える必要があります。

     

    人はよく「ストレス発散」と言いますが、「これが私のストレス対処法」と呼べるものをお持ちでしょうか。

    これをすると心身を覆っていた泥のような疲れがすっととれる。そんな方法をお持ちであれば言うことはありません。

    ストレスに対して、対処する手段を確立しているということです。

    このような、ストレスに対する対処法をストレスコーピングと言います。

    ストレスコーピングは様々に分類できますが、難しい話は置いておきましょう。

     

    ストレスでぺしゃんこにされた心身を回復させる、いい方法を何か一つでも身につけていますか? 身近にあるもので、手軽にできるのに越したことはありません。自分を傷つけるやり方ではなく、誰かのサポートを得るなど、自分を大切にする方法を見つけましょう。

    ストレスを感じたら、それを追い払えるような快いものを探してください。

    これもまた、適応障害の敵である、ストレスと戦っていくうえで、非常に重要な武器になります。

藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
大阪大学 大学院人間科学研究科 博士後期課程単位取得退学。大阪大学非常勤講師をはじめ、各種教育機関で教鞭をとる。 メンタルクリニックにて十年弱心理職として従事。「体験型ワークで学ぶ教育相談」(大阪大学出版会)一部執筆。現在は特定非営利活動法人Rodinaの研究所にて、リワークを広く知ってもらうための研究や活動をおこなう。