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正しい睡眠のとり方 ~心身の調子を整えるために~

復職をしていくにあたって、産業医、主治医、上司など多くの方から「ちゃんと眠れているか?」と確認された経験のある方は多いのではないでしょうか。そのためなんとなく眠ることは大事と理解している方は多いかと思われますが、いったいどのような睡眠をとればいいのかわからないという方も多くいらっしゃるかと思います。

そこで今回は、正しい睡眠とは何かについてご紹介したいと思います。

  • 正しい睡眠について。適切な睡眠時間は?

    正しい睡眠のとり方
    ※イメージ写真です

    睡眠は記憶の形成に始まり、感情の整理、脳の代謝物の排泄、免疫の調整、ホルモンの調整など、様々な役割を果たす大事な営みです。では、それをより効率的におこなうにはどのようにすればいいのでしょうか。正しい睡眠を保つにあたって重要なキーワードが2つあります。それは“睡眠時間”と“睡眠リズム”です。

     

    “睡眠時間”が大事ということについては、多くの方がご存知かと思われますが、実は日本は先進国の中でもトップクラスの睡眠不足大国と言われています。先進国での平均値と比較して、日本人の睡眠時間は約1時間も短いと言われています。そのため「周りと比較しても十分に睡眠をとっているから大丈夫」と思われる方もいらっしゃいますが、(特に忙しい職場など)周りの方も含めて皆が睡眠不足ということもありますのでくれぐれもご注意ください。

     

    では、適切な睡眠時間とはどの程度なのでしょうか。適切な睡眠時間は6~8時間程度と言われています。そのため平均的に6時間未満の睡眠時間の方はほぼ間違いなく睡眠不足であるため、ぜひ睡眠時間を延ばす工夫をするようにしてください。6時間未満の睡眠時間では、うつの症状が出現しやすくなるなど精神への影響も強く指摘されています。また適切な睡眠時間は個々人によって異なります。自身の適切な睡眠時間を示す最もわかりやすい兆候は日中の眠気です。もし規則正しく過ごしているにも関わらず日中に眠気を感じる場合は慢性的な睡眠不足に陥っている可能性がありますので、睡眠時間を見直すようにしてください。

  • もう一つのキーワード。“睡眠リズム”を維持しよう

    睡眠リズムとは、体内時計に基づいて規則正しく睡眠と覚醒を繰り返すことを指します。睡眠リズムについては今まであまり意識をされていないという方も多いのではないでしょうか。しかし睡眠リズムは実は身体にとって非常に重要な機能を司っています。睡眠リズムは、ただ単に昼間に起きて夜間に眠るということだけを担っているのではありません。ホルモンや体温など身体の様々な機能を同調させるのにも重要な役割を担っています。そのため睡眠リズムが崩れると、同時にホルモンや体温など様々な身体の機能がうまく協調することができなくなり、結果として身体的にも精神的にも大きな負荷がかかります。この状態を内的脱同調と呼びます。

     

    体内時計は日中の活動に合わせて活動をしやすくなるように、そのタイミングを調整する機能があります。しかし、その調整速度は非常に遅く、日中の活動に合わせて体内時計が完全に調整されるのには、1~3週間程度の時間がかかると言われています。そのため細かいリズムの調整は非常に困難です。これに関して多くの方が経験したことのある睡眠リズム障害として『ソーシャルジェットラグ』が知られています。これは平日と休日で起床時刻が異なる(例えば仕事のある日は6時に起きるが、休日は9時に起きるといったもの)ことを指します。平日の疲れを休日に癒すために積極的におこなっていた方もいらっしゃるかもしれませんが、実は睡眠医学の観点からはこれは大きな問題です。休日のたびに3時間の時差ボケが生じていることと同じであり、常に内的脱同調が生じ疲れがかえって取れない状態となってしまいます。

     

    では、どのように休養を取るのがいいのでしょうか。それは起床の時刻を一定に保つことです。体内時計は、日光を浴びることでそのリズムを調整します。そのため起床の時刻を一定に保ち、それでもまだ眠い時は入眠時刻を早めるようにしてください。また現代は、遮光カーテンや高く密集した建物の影響で朝方に光を浴びることが難しくなり、逆に夜は多くの光を簡単に浴びることができるなど、睡眠リズムにとっては非常に悪い条件が重なっています。そのため光を調整し内的脱同調を減らすことは、現代で生きる上で非常に重要です。具体的には意識的に夕方から夜間に浴びる光を減らす(夜は部屋の明かりを弱める、携帯電話やPC、テレビの使用時間を減らす)。朝方に光を積極的に浴びる(カーテンを完全に閉めない、屋外の明かりに合わせて起床前から点灯する照明、起床後に部屋全体を明るくする、午前中の散歩など)。このような工夫により身体への負荷を軽減することができます。

     

    <正しい睡眠についてまとめ>

    6~8時間程度(かつ日中に眠気のない程度)の睡眠時間を確保する

    朝の起床時刻を一定に保つ

    適切に光を調整する(夜間の光を減らし、朝方に浴びる光を増やす)

  • 正しい睡眠を崩してしまう、“不眠”の原因とは

    正しい睡眠を崩してしまう、“不眠”の原因とは
    ※イメージ写真です

    上記のように正しい睡眠をとろうと思ってもできない理由の一つとして“不眠”があります。ここでは不眠の原因とその対処法について説明します。

    まずうつ病、双極性障害、統合失調症などの精神疾患の症状が強くそれに伴って眠れない場合は、ご自身の努力や生活習慣で改善することは難しい場合がほとんどです。その際は主治医の先生と相談してお薬の調整なども必要になります。

     

    しかし、他の症状が重くないもしくは安定しているにもかかわらず不眠が続くことも多くあります。そのときは上記の正しい睡眠が崩れている可能性があります。そしてそこに輪をかけて影響を及ぼすものとして『条件付け』が挙げられます。パブロフの犬(イヌの唾液分泌の実験をしているなかで、ベルを鳴らしてからエサを与える事を繰り返した結果、ベルを鳴らしただけで唾液を出すようになったという条件付けの一例)でご存知の方もいらっしゃるかと思われますが、人間の睡眠にもこの条件付けは当てはまります。何かしらの理由で眠れない状態で、ベッドに長くいると「ベッドは眠れない場所」という条件付けがなされます。そして不眠に陥ると少しでも長く寝ようと思い、ベッドに長い間いようとすると、それだけ眠ることができない時間も増加します。そのため「ベッドは眠れない場所」という条件付けが強まります。このような悪循環を繰り返すことで、「ベッドに入るまでは眠かったのに、ベッドに入ると急に目がさえる」という不眠が完成します。

     

    では、どのように対処するのがいいのでしょうか。それはこの条件付けを打ち消すことです。眠れない場合は一度ベッドから出て眠くなってから、再度入眠することが勧められます。不眠に対する認知行動療法では『睡眠制限法』といって睡眠時間をあえて一時的に短くします。例えばベッドに入っていい時間を5時間30分程度に短くすることで、条件付けを消し去ります。その後、睡眠時間を本来あるべき姿に戻していくということもおこないます。ここで大事になるのは、夜までしっかり眠気を保たせることです。リズムの崩れや昼寝によって眠気は容易になくなってしまうので、くれぐれもご注意ください。

  • 精神症状と睡眠障害を同時に治す方法

    ここまで生活の中での工夫でどのように適切な睡眠をとっていけるのかを紹介してきました。最後は、うつの症状で、上記をおこなおうと思ってもできない方への新しい治療法を紹介します。

     

    うつ病では、うつの症状で眠りにくくなるだけでなく、抑うつに伴った日中活動の制限から生活習慣も崩れさらに不眠が悪化してしまうことが知られています。またその不眠はさらにうつを悪化させるなど悪循環に陥ることもしばしばです。うつ病に対しては薬による治療が一般的とされていますが、そのうち約3割は治療抵抗性と言われており薬を十分な量使っても改善が認められません。

     

    そのようななか、昨今注目を集めているのはrTMS療法です。rTMS療法は薬とは異なるメカニズムで効果をもたらす新しいうつ病への治療選択で、治療抵抗性うつ病の方へも一定の抗うつ効果をもたらすことが知られています。さらに、不眠の改善効果も知られており副作用の少なさも注目を受けています。デメリットとして30日間継続的な(一般的には週に5回を6週間)治療を要することとされていますが、この様なrTMS療法をきっかけとすることで生活習慣が改善することも多く認められており、結果的にはメリットともなりえます。

     

    rTMS療法は、まだまだ日本では十分に広まっていませんが、お薬の効かないうつ病への効果、不眠への治療効果、生活習慣の改善、副作用の少なさなど注目に値する点は多々あります。一部の大学病院では臨床研究や治験といた形で費用負担もなく受けることも可能です。主治医の先生とご相談しながら、このような手段を試してみるのも、現状を打開する一つの手段となりうるかもしれません。

執筆:和田 真孝(慶応義塾大学医学部 精神・神経科学教室)
執筆:和田 真孝(慶応義塾大学医学部 精神・神経科学教室)
2015年慶応義塾大学医学部卒業。2017年同大学 精神・神経科学教室に入局。2019年より「うつ病に対する新規rTMS治療プロトコル研究」に従事する。